カフェさんの性格診断

 街にクリスマスムードがボチボチ出始めて、一人身に寒さが染みる季節になった12月中旬の
出来事。事の始まりはいわゆるひとつの立ち読みである。立ち読み場所は通学路から
1、2分外れたところに鎮座する行き付けの『TSUTAYA』。

 この『TSUTAYA』、何でも日本全国に1000店舗以上散らばっているらしいが、
私はこの通学路近くの支店を大変重宝させて頂いている。1階は書店、2階はCD/ビデオの
販売・レンタルを行っているので、週4、5回は行く。実際コンビニよりも行く回数が多いほどだ。

 ともすれば思わず「ただいま」などと口走ってしまいそうなのを堪え、今日も今日とて
『TSUTAYA』入店。いつものごとく無意味に店内をぐるっと見て回る。すると一冊の本に
性格診断と書かれているのが目に入る。興味本位で背表紙を見ると、

性格のバイブル エコグラム式性格診断の本

とのこと。

 実は私、こういった心理テスト系のものは大好きなのだ。昔TVかなんかでやっていた
『それいけ×ココロジー』という本も知りうる限り(5,6冊。古本含む)買っている。成人過ぎて
社会的にとりあえず一人前の男と認識される人間がこんな事書いていたら「暗いな、お前」とか
言われそうな気もするが、書く。自分でもそれ程度の事は重々承知しているつもりなので、
それはそれで別にいい。が、敢えて言い訳をさせて頂くならば一応の理由はある。実は私、
こういう心理テストの類でほとんどいい結果が出た事が無い。そのため……

良い結果が出るまでテストをやり続けるのだ!

 ………。判っている。どれだけ自分が不毛で無意味な言動をしているかぐらいは、十二分に
判っている。しかしだ、とある心理テストで散々悪口を言われた挙句、唯一良かった結果が
『ギャンブル運が強い』だけではこういう風になりたくもなる。まぁ、その結果がさほど合っていなければ
特に何の問題も無かった。本人が笑い転げる程合ってさえいなければ、友人に見せたら爆笑されて
「お前そのものだな!」などと指差されて言われたりしなければ、何の問題も無かったのだ。
しかし実際は無情にも九分九厘正解であった。

 かような思い出があったせいで、心理テスト系の本を買い続けるような風変わりな性格に
なってしまった。まさか心理テストの本を買った直後に性格が変わるとは自分でも思わなんだ。

 前置きが長くなってしまったが、そういった理由で『性格のバイブル』なる本を手に
取って見定める。『バイブル』と言うフレーズがいい感じに胡散臭い。徐に適当なページを
開くと、あるテストの結果が表示されていた。パッと見この本、思っていたよりもかなり
詳しく書かれている。

 ちょっと欲しくなったので、値段見る。税別1400円、実に微妙な値段だ。しばし
葛藤する。……………。結局購入を決意する。マンガ、『バトルロワイヤル・5巻』(ツッコミ不可)
とともにレジに出し、直帰。

 上記のプロセスを経て、性格診断することと相成った。腰を落ちつけ初めから読んでいくと、
いきなり50問問題が羅列されていた(〇、△、×の三択)。どうやらこの性格診断、
エゴグラム式らしい。エゴグラムとは人の心を5つの領域(CP・NP・A・FC・AC)に分類し
各々3段階に分け、簡単に自分の性格が判るという代物。

 ……そういえばこういう本を求め始めたきっかけもエゴグラム式のテストであった。
その時は問題数も少なく、『5つの中でこれが高い人はこういう性格』といった感じで、
分類は当然5通り。血液型占いのごとく単純な分類であった(結構辛辣に書かれていたが)。
しかし今回の本は5つの分類を3段階ずつ相対的に考え、3×3×3×3×3=243通りに
分類するという強烈なものであった。実際はこれでも一番シンプルらしく、以前のは一体
なんだったのかと思ってくる。

 そしてふと思う。きっと以前のは嘘だ、ブラフだ、間違いだ……と。そもそもたかだか
5つ程度の分類で、人様の性格を分けられるハズが無いではないか……と。

 自分の性格をズバズバ言い当てられた事は置いといて、自分に都合のいい様に解釈する。
そう、私は生まれ変わる。きっとこの性格診断を受ける事により、自分の良い面・悪い面が
明らかにされ、これからの進むべき道が浮き彫りにされるはずだ。さぁ私、過去の因縁は
さっさと忘れ、新しい世界への扉を開くのだ。というわけで、エゴグラム式性格診断…
……開始!!

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   (診断中)
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燃えた…燃え尽きたぜ…真っ白にな……(灰)

 ………順を追って説明させて頂く。先ほど述べた通り1種類に付き10問ずつ、計50問。
三択式で、〇を2点、△を1点、×を0点として計算する。CP・NP・A・FC・ACが20点満点で
判るわけだ(7点以下ならCランク、8点以上13点以下ならBランク、14点以上ならAランク)。
CPは「父親的な心」、NPは「母親的な心」、Aは「大人の心」、FCは「自由な子供の心」、
ACは「従順な子供の心」を司る。そして私の結果は………
CP:ランク NP:ランク A:ランク FC:ランク AC:ランク
であった。

 次ページに各タイプのINDEXが載っているので、ページを捲る。私のタイプはCP
から順に、CBACC。No.198。243通り中198番、のっけから泣きたくなるほど
嫌な予感がする。はやる気持ちを押さえながら、焦らず迷わずゆっくりと結果が載っている
ページを見る。そしてそこには私の診断結果が、包み隠さずバシッと表示されていた。

CBACC:意思や欲望の退化したタイプ

 ……人生において『退化』という言葉を眼前に付きつけられたのはこれが初めてである。
たった十数文字の中に自分の20年を超える人生が凝縮され、なおかつ生態系を逆行して
いるという人生の意味を根底から覆す言葉を突き付けられたと思うとかなり悲愴な気分に
なってくるが、事はこれで終わりではない。この下には私の性格と対人関係(このタイプ
との付き合い方)が書かれている。これ以上は傷口を広げてしまうだけのような気もする
が、ここまできて後へは退けない。意を決し、目線を下に移す(下記のは原文のまま)。

性格
怠け者である事は間違いないのですが、別に遊び歩くわけでもないのです。ネクラで無口
で、ただそこらでゴソゴソしているだけというタイプなのです。
まるで世捨て人のような感じです。興味本位で接触してみれば、意外や意外、普通の人間
以上に物事も知っているし、判断力もしっかりしているといったタイプなのです。
いうなれば頭のコンピュータだけが発達していて、意思も気力も欲望も、ひどく退化して
いるといった感じのタイプなのです。
このタイプがこれから、管理社会の中を生き抜いていくには、並たいていのことではない
ような気がします。どこに活路を求めるかといっても難しいのですが、書類整理だけが仕
事のような職場が見つかれば、それが一番良いでしょう。

対人関係(相手がこのタイプの場合どうすればいいか)
● 恋人・配偶者 :この相手と生活を共にするのは、まず無理と思って差し支えない。
●得意先 :意見や考え方はまともでも、実行力はゼロに等しい相手だ。雲を掴む
 ような話、と同じ結果になりかねない。
●上司 :こういうタイプが上司の座につく可能性はまずあるまい。
●同僚・部下 :誰がどこから拾ってきた人間かよく調べて、しかるべき処置を取る
 ほうが良い。まともな仕事ではほとんど使い物にならないはずだ。

 ……………。白くなる私。どないせい言うのよこの結果。とりあえずもう一回振り返っ
てみるとしようかね……。

・ 怠け者である事は間違いないのですが  : 断定かい!
・ ネクラで無口  : 悪かったな!
・ ただそこらでゴソゴソしているだけ  : ……ゴキブリかい……。
・ 世捨て人のような感じ  : まだ21なんすけど(泣)
・ 頭のコンピュータだけが発達  : 頭のコンピュータって、なにさ……。
・ 意思も気力も欲望も、ひどく退化している  : また退化………しかも一つ追加され……。
・ 書類整理だけが仕事のような職場 が良い  : 学校行く意味ねえー……。
・ 生活を共にするのは、まず無理  : 独身貴族決定。
・ 実行力はゼロ : ゼロ……印度が生んだ素晴らしき数字。
・ 上司の座につく可能性はまずあるまい  : 万年ヒラ決定。
・ 誰がどこから拾ってきた人間か調べて  : 犬猫かっ!!
・ まともな仕事では使い物にならない : アハハハハハハ…ヾ(@ ̄ー ̄@)ノ

良い所無いなぁ、私(涙)

 物事知っていても、判断力あっても………金の足しにはならないんですよねー………。
なんか他に無いもんかね……。

 という訳で、本を最初からパラパラと捲る。すると『五つの心が高いとどうなる 低い
とどうなる』というページを発見。私はAが高く、CP・FC・ACが不足しているので、
それにそって読む。すると私の良い所は、知性・理性があって、現実志向(長所か?)で
冷静で、感情抑制ができる事らしい。ええよええよ、ええ調子やでー。さっきと違って、
なんだか優しいねぇ。落ち込む私の深い闇に射す一条の光、私の渇いた心を潤す光………。

とはいえ良い面ばかり書いてあるわけはない。しっかり悪い面も書いてある。まぁしょ
うがない、ちょっと読んでみようかね。え〜と何々、私の悪い面をまとめると私は………

無責任でルーズで人の言葉に左右されやすく、嫌な事にNoと言えず批判力が無い癖に理詰めで
物を言い、計算高く人の言質を逃さない上に自己中心的で、科学万能主義に加え物質万能主義で、
自然を無視し人間のコンピュータ化を企む割に無気力なシラケ人間で、能面でネクラでアレが下手で
人生を楽しめず、その上反抗的で独善的で頑迷であまのじゃくになりやすい

といったタイプらしい。うーんなんて言うか………

読むんじゃなかったな。

 長所の4倍を上回る短所。持ち上げといてより深い所まで落とすという基本に忠実なやり方に、
光も射しようがない所まで落ち込む私。もはや進むべき道は黒々洞たる夜があるばかりである
といった風情になってきた。

 目に染みる塩水を必死で堪えながら、この現状の打開策を模索する。が、考えるまでも無く、
この本を読み進めるより他に手があろう筈もないのは自明の理である。これ以上この本を
読み進めるのは恐怖の一言に尽きるが、さすがにこれ以上落ち込むこともなかろうと吹っ切れ、
ある意味爽快な気分で読み進める。どうやらこの本は性格診断の他に悟りの書の役割も果たすようだ。

 そして『不足した五つの心を高めるにはどうすればいいか』というページを発見。OK、
こういうのを待っていた。とりあえず悪い面を無くせば良しとしよう。私に不足している
CP・FC・ACを補うためには下記のようにすれば良いらしい。

CP:人がどう思うかを気にせずイエス・ノーをハッキリと言い,妥協は絶対に避ける
FC:日頃から自分が感じたことを素直に口に出し、積極的に人を笑わせる
AC:相手の話をよく聞き、相手の立場になって考え、相手を優先させるようにする
三つをまとめると、妥協せず素直になり相手を優先させる、ということになる。………。

イヤ、それ無理。

 ご勘弁願いたい。もはや完全に身動き取れない。どれか一つを心掛けると、他の二つが
疎かになる。どれを優先させろだのといった類の物は一切書かれておらず、はっきり言って
何の解決にもならないために、使えない事この上ない。今一度何かないか探すが、全く
もって見つからない。……まぁ仕方が無い。いい加減諦めよう、悔しいけど。私の性格が
悪いせいだよね、こういう結果になったのは。反省します。

 とはいえ、いつまでグチグチ言っていてもしょうがない。昨日を思い煩うよりも明日の
ことを考えよう。性格改善は後回しにして、別の性格診断を探すことにする。という訳で
ページをペラペラと捲る。しかし前半はエゴグラムの説明、後半は診断結果ばかりで他の
問題が見つからない。………まてよ………これって、もしかして………

この本、これで終わり!?

 もう一度一から捲る。無い!目次見る。無い!!カバー取ってみる。………無い!!!
……………ってコトで……………、

カフェさんの性格診断、これにて閉幕。

 何度裏切られたか判らないカフェさんの性格診断は、最悪の形を持って幕を閉じました。
戦いの後に残ったものは、微小な爽快さ、多少の悔恨、そして………深淵なる絶望。
こんな仕打ちを受けるためだけに1400円(+税)を払ったんかい、わたしゃ……。
てか、立ち読みしたときに診断1問しかない事に気付けよ自分(泣)

 このままでは腹立たしい事、火の如し。こうなっては手段は一つしかない。我が心の友
数人にも診断させよう。そうだ、それしかない。あいつらにも我が苦しみを味わって頂こう。
そしてあいつらを笑いつつ、「私はこんなんだったよー」とか言って笑い話にしつつ、
我が心に吹きすさぶ暴風雨を和らげるっきゃない。

 かように思い、のんきに『バトロワ5巻』なぞ読み始める私。しかし明日自分に降りかかる
災難など、このときの私には知る由もなかった。一番大事な事に気付いちゃいなかったのだ。

私より診断結果が悪い奴などいない

ということに。さもありなん。




※1:次の日友人達にやらせてみた処、彼らは笑える程度の診断結果でしたが、私の診断
   結果は大爆笑といって差し支えないほどのものでした。
※2:『エゴグラムによる性格診断』というサイトで、本と全く同じ問題の性格診断がありました
   (診断結果に書かれている事は本と異なる)。私の診断結果は当然CBACCで、
   診断結果はこのようになりました。………本でもネットでも碌な結果が出ない私。
※3:著作権に触れていたらどうしよう……。


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