渦 Maelstrom 00年・カナダ★★☆
監督・脚本:デニ・ビルヌーブ
出演:マリ・ジョゼ・クローズ、ジャン・ニコラス・ベロー他
2001年度のベルリン国際映画祭・国際映画批評家連盟賞、カナダ・アカデミー賞の最優秀作品賞哺部門を独占するなど数々の賞を受賞した、カナダの話題作。。新鋭デニ・ビルヌーブが独特の映像感覚で描く現代のファンタジー【ストーリー】大女優の娘ビビアンはある夜、誤って車で男を轢いてしまう。パニックを起こした彼女は、思わず被害者をそのままに走り去る。翌日、新聞が男の死亡を告げる。罪の意識にさいなまれ一人苦悩するビビアン。そんなある日、彼女はミステリアスな魅力を持つ男、エビアンに出会う。ふいに巻き込まれた、不思議な運命の「渦」から彼女は再生できるのか?

カナダ映画界は時々スコーンと青天の霹靂のように、エキセントリックな映画監督を世界に輩出する。デビッド・クローネンバーグにアトム・エゴヤン。その流れを踏襲して現れたのが、この作品のデニ・ビルヌーブ監督ということらしい。

確かにヴィジュアルは奇抜で斬新。波しぶき、雨、シャワー・・・全編にわたって水を登場させ、冷たさや、水の中でもがくような息苦しさなど、水のイメージは縦横無尽に形なき形を変えて、様々な体感として伝わってくる。クールな青い映像は、青系のフィルターだけに頼らず、小道具やライティングだけで青い世界をつくり、そこに「肌」や「血」といった生生しい生き物の属性を、自然の色そのままでぬるく浮かび上がらせる。このように、この作品、映像作りには並々ならぬこだわりがあり、写真などの撮影の知識がある人や、映像として映画を楽しみたい人には、この手のこんだ絵作りには感心させられる。

また、グロっぽい映像に、わざとノーテンキなポップスをブツけてみたり、カッコイイシーンに、わざと民族音楽ぽいものをブツけてみたり、どれも妙な選曲なのだ。しかし、「納豆にマヨネーズを入れたらひどくウマかった」みたいな不思議なミスマッチのマッチがあり、こういう新しい実験をいともカンタンにやってのけ、それがぜんぜんスベらず、新しい映像プラス音楽の表現の可能性をさらりと示しているあたりはちょっとスゴいなあと思った。

血みどろのまな板の上で、怪物のような男から今まさに解体されようとしているグロテスクな魚が、この物語の「語り部」になっている。物語自体は唐突なほど偶然な展開を見せるにしても、さほど非現実的なものではないので、あえて魚に語らせる必然性はない。が、映画全体に不思議な印象を加える効果は十分にある。
ある場面の視点を主人公だけではなく、脇役の視点に変えて進行させる手法は面白い。

人を殺したという罪の意識におしつぶされそうになって、苦悩し、やがて立ち直っていく主人公の姿は、凝った映像がかえってジャマになっているのか、心に響いてこない。・・・・この作品は、MTVやCM出身の監督の作品によくある、物語よりも「まずイメージありき」な作品だと言ってしまってもいいかもしれない。監督自身もこの作品にはさほどメッセージ性はないようなことを言っているようだし。
とにかく、映画という表現の可能性は、まだまだ無限にあるのだなあと思わせる作品だと思う。

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