ハンニバル 00年・米 ★★★
監督:リドリー・スコット
出演:アンソニー・ホプキンス、ジュリアン・ムーア他
アカデミー作品賞ほか5部門に輝くサイコ・サスペンスの名作『羊たちの沈黙』、10年ぶりの続編。前回に引き続きアンソニー・ホプキンスがハンニバル・レクター博士を演じ、『マグノリア』のジュリアン・ムーアが前作のジョディ・フォスターに代わってクラリスを演じる。監督は2001年アカデミー賞の最有力候補『グラディエーター』のリドリー・スコット(2001/3/2現在)。

映画史に輝く(?)唯一無二の人物、アンソニー・ホプキンス扮する殺人鬼ハンニバル・レクター博士が再びスクリーンに戻ってきた。
前作のジョナサン・デミ版の『羊たちの沈黙』の静かな恐怖感を踏まえ、映像派監督リドリー・スコットが、ルネッサンス美術の街フィレンツェを舞台に、レクターの美意識と狂気、そして倒錯した愛情を、芸術的に、匂いやかに描き上げている。
デミ監督とともに、クラリス役のジョディ・フォスターが出演依頼を断ったことが話題沸騰となった。私も残念。今回、10年後のクラリスを演じたのは『ブギー・ナイツ』『ことの終わり』でアカデミー賞助演女優賞にノミネートされた、今ハリウッドで最も売れている女優のひとり、ジュリアン・ムーア。知的でコケティッシュな魅力、やや冷たさを感じさせる容貌の中に、内面的な情熱が見え隠れするこの人が、私は結構好き。クラリスを演じるのがムーアだと知り、ガッカリ感が減った。また、ルックスも雰囲気も、フォスターに近いと思う。とは言え、アカデミー主演女優賞に輝いたジョディ・フォスターのクラリスは、フォスター最高のハマリ役なので、観客にはムーアに対する期待感はさほどないだろうし、ムーアにはフォスター以上のクラリスを演じようという気負いはないと思う。仕事のキャリアと恋愛を経て、成熟した女としてのクラリスを、比較的淡々と演じきったと思う。
しかし、『ハンニバル』はあくまでもレクター博士を中心に描いた作品なのだ。

全米中を震撼させたバッファロー・ビル事件から10年、逃亡の果てにレクターが安住の地に選んだのはイタリアのフィレンツェ。ルネッサンスの芸術にあふれ、中世の妖気がただようフィレンツェの街は、レクターの美意識の全てが結実したような街である。ダンテの研究者として、貴族の書庫の司書としてフィレンツェ住まうレクター博士だが、彼の正体が地元の警察官に見破られてしまったことをきっかけに、殺しの現役に戻ることになる。そこで繰り広げられるレクターの「死の芸術」は、中世の物語の挿し絵に似た、一服の絵のよう。殺戮シーンをここまで芸術的に描いたリドリー・スコットの力量にはうならされる。原作小説では、レクター博士の教養と美術的センスの描写が多く、それがかなりウザい感アリ、との声があるが、映画化にあたっては、そのあたりはすっきりまとまっているのではないかと思う。

R指定なので、ショッキングなシーンはもちろん多い。しかし、心臓が破れるようなドッキリ感はない。怖いと言えば、臓物がブラ下がる死体よりも、レクター博士が過去の犠牲者に捕らえられて、豚の餌食にされそうになる「悪趣味」の方が心が底冷えする。最大の見せ場である「晩餐」シーンは、恐怖よりも、やや滑稽さを感じました。

レクターのクラリスに見せる愛情は、サイコな感じはしないが、非常に切ないものがあって、ヨイ。

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