ギター弾きの恋 |
99年・米★★★☆ |
監督・脚本:ウディ・アレン
出演:ショーン・ペン、サマンサ・モートン、ユマ・サーマン他 |
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ウディ・アレン監督30作目は、ジャズ全盛期の30年代のアメリカを舞台に、伝説のジャズ・ギタリスト、エメット・レイの気まぐれで自堕落な日々と、彼が出会った言葉を話せない女性との恋愛を、可笑しくも優しく、そして切なく描いた。エメレット・レイを演じたのはショーン・ペン。恋人ハッティはイギリス出身の新鋭サマンサ・モートン。2000年アカデミー賞主演男優賞、助演女優賞にそろってノミネートされた。 |

近年のウディ・アレン作品は、よけいなものを削ぎ落とし、より楽しくなってきたように思う。
若い頃のワタシのように、インテリジェンスに欠ける見栄っ張りのスノッブ人間ほど、『アニー・ホール』などのウディ・アレン作品を持ち上げて、わかろうがわかるまいが、そのインテリ都市生活者の神経質なコメディに一生懸命ついていこうとする(今もそうだが、年の功でようやく理解できるようにはなった)。しかし、ウディ・アレンの泥沼離婚劇によって彼の映画からミア・ファローが消えたことで、心機一転。『ブロードウェイと銃弾』あたりから、若手スターを主演に据え、ウディ・アレン作品はぐんとエンタテインメント色を強めた作品が増えた。自分のアホさに見切りをつけ、アホなりに堂々と楽しく生きることに決めた今のワタシのサッパリした心境に、近年のウディ・アレン作品は「そうだよ、やっぱり映画も楽しくなくちゃね」と微笑んでいるかのよう?
ウディ・アレン監督30作目の『ギター弾きの恋』は、極上のラヴ・ストーリーに仕上がっている。
伝説のジャズ・ギタリスト、エメット・レイは、ハデ好きで破天荒で、娼婦の元締めもやるぐらい、裏の世界にも通じている。ゴミ捨て場のネズミをピストルで撃つことと、走る貨物列車を見ることが大好き。フランスの名ギタリスト、ジャンゴ・ラインハルトに心酔し、「自分も天才だけど“世界で二番目”」と思っている。女好きだが他人と心を分かち合うことができない。それがアーチストだと思っているフシがある。彼の心の底にある、豊かな感情のすべてはギターにだけ現れる。人はエメットのギターに感動し、拍手を浴びせる。
エメットはニュージャージーの海辺でナンパした、言葉が話せない娘ハッティと出会う。最初は言葉が話せないハッティにいささかひき気味で、刹那の恋で終わるかと思いきや、エメットは自分のかたわらにいつもハッティを置き、一緒に棲み始める。ハッティに強く惹かれるエメットの気持ちは、ハッティ以外の女たちとのやりとりの中で、伏線的に描かれている。元彼女は彼のマネージャー同様、彼の破天荒な生き方や浪費癖を非難するし、エメットがハッティを捨てて、衝動的に結婚する上流階級出身の作家志望のブランチ(ユマ・サーマン)は、貨物列車を見るのが好きなエメットを「それは、貧しかった子供時代のトラウマ?それとも雄雄しい男性自信の象徴として見ているの?」といちいち分析したり、エメットが神と仰ぐジャンゴとの比較までしてみせる。そりゃエメットの生き方には誰もがモンクをつけたくもなるが、男って、特に芸術家てのは自尊心の生き物なんだろうよ。比較されたり、彼を思うように操ろうなんて、エメットにとっては一番許せないことなのだろう。だから、決して自分をくさすことのない、ただ自分だけを真っ直ぐにみつめてくれる優しいハッティに、心の安らぎを見出し、自分のほんとうの気持ちをさらけだしていく。
このラブ・ストーリーは、フェリーニの『道』を思わせるが、後味は『道』のように重い悲しさをひきずらせるものではない。あくまでもウディ・アレン流に、甘い切なさを残しながらフッと終わる。
『ギター弾きの恋』では、アレン節とも言える、饒舌で神経質なマシンガンのようにちりばめたセリフが、ぐっとトーンダウンしていることにも注目したい。なんたって、言葉が話せない娘をおき、ギターだけで気持ちを通じ合わせる、そんな静かで豊かな愛情のやりとりが随所に見られるんだもの。語り尽くせない気持ちや愛情のやりとりを、演出と、音楽で、よりいっそう豊かに見せてくれる。ウディ・アレン、ここにきて「円熟」の境地を見せてくれていると私は思った。
ショーン・ペンのダメ男ぶりも実に素晴らしいが、ハッティを演じたサマンサ・モートン、難しい役どころを全身全霊で演じていている。ハッティ、いつも何かを食べているんだよね。この一生懸命食べている姿が、あまりにもけなげで可愛らしくて、なぜか泣きたくなる。
劇中にウディ・アレンやジャズ評論家のナット・ヘントフらが登場して、映画の進行にあわせて、エメット・レイについて解説をはさむのだが、ここでネタばらし。実は、エメット・レイなる人物、ウディ・アレンが作った架空の人物であります(知らなかったの私だけらしい)。この、人を喰ったような「フェイク・ドキュメンタリー」仕立てには、何とも「やられた!」と嬉しくなってしまう。ワタシなんか、予備知識ナシで観たものだから、終演後パンフレットを読むまで「エメット・レイのCD、買おう!」と真剣に考えていました。
ストーリー、キャスト、音楽の良さがあいまった上出来の『ギター弾きの恋』は、何度も観たくなる作品。DVDは絶対購入。
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