花様年華 00年・香港★★☆
監督:ウォン・カーウァイ
出演:トニー・レオン、マギー・チャン、レベッカ・パン他
2000年カンヌ国際映画祭主演男優賞(トニー・レオン)、高等技術賞に輝き、世界各地で大絶賛のウォン・カーウァイ監督の最新作。男と女の心中に深く分け入り、匂い立つような情感を描き出した。香港1962年。隣に住む男と女。秘められた恋。戸惑い。裏切り。復讐。微妙な心の動きをクリストファー・ドイルとリー・ピンビンのカメラが静かに見つめる。

欲望に忠実にならない、理性にしがみついた恋愛の中に、激しい官能の匂いが見え隠れ。
ウォン・カーウァイの『恋する惑星』『天使の涙』などに見られた、奔放でスタイリッシュではじけるような映像感覚は、この作品ではぐっとトーンダウンし、心惹かれ合う既婚の男と女の揺れ動く想いを、情感たっぷりに静かに描いている。監督自身思い入れの強い作品『欲望の翼』(私も大好き!)の第2部という位置づけで作られた『花様年華』は、舞台はふたたび1960年代の香港。夫婦仲に隙間風が吹き、心に寂しさを抱く男女が出会い、恋に落ち、そして別れるというシンプルなストーリー。しかし、心理的な演出が豊かで、登場人物の内的葛藤が複雑にからみあっているので、後味がずっしりと残る。

『欲望の翼』は、生きることに不器用な若者の破滅の物語だが、この作品は分別と社会性に捕らわれた、大人の恋の物語。時代設定は同じだが、『欲望の翼』の続編という印象はさほどない。恋愛がややライトになっているこの頃では、「決して一線を越えることはない」この映画の中のプラトニックな恋愛が新鮮に映るかもしれない。一触即発のギリギリに張り詰めた恋心と理性の狭間で、揺れる男と女の切ない姿にこそ、官能の空気が強く感じられるのは私だけではないはず。男が書いた恋愛小説のセリフを読みあげながら、女が自分の気持ちを投影させたり、お互いの伴侶の影を感じながらも、それを打ち消すことなく、さらに官能的な気持ちをくすぶらせていく狂おしさを、映像のなまめかしさと、情熱を内へ内へと向けていく演出だけで表している。カーウァイ監督作品としては、新しい面を見せていると思う。ただ、カーウァイ的な映像への自画自賛が随所に見られ「どう?カッコイイでしょ」的アピールも感じさせないではないが、そんなうるささがありつつも私的にはストライク。
しかし、『花様年華』は好き嫌いがハッキリ別れるような気がする。カーウァイファンの間でも分かれそう。

この作品でトニー・レオンがカンヌで主演男優賞を受賞したが、チャイナドレスにほっそりした身体を包んだマギー・チャンの寂しげな風情と色香が素晴らしい。マギー・チャンは香港や中国の女性らしいちょっとカリカリした雰囲気があるが、同時にしっとりした潤いや感情の豊かさが感じられる、優れた役者だと思う。

音楽もいい。「キサス・キサス・キサス」などのスタンダードナンバーを60年代の香港のシーンにブツけて絶妙にマッチさせている。

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