マレーナ 00・伊=米★★☆
監督・脚本:ジュゼッペ・トルナトーレ
出演:モニカ・ベルッチ、ジュゼッペ・スルファーロ他
『ニュー・シネマ・パラダイス』『海の上のピアニスト』のジュセペ・トルナトーレ監督最新作。第二次大戦のイタリア、シチリア島を舞台に、少年の日の忘れえぬ「運命の恋」を繊細なタッチで描く。トルナトーレ作品に欠かせないエンニオ・モリコーネが今回も音楽を担当。

ジュゼッペ・トルナトーレ映画の最大のモチーフ、わかった。「忘れえぬ初恋」じゃないかな。
『ニュー・シネマ・パラダイス』にしても『海の上のピアニスト』にしても、主人公が初めて恋に落ちる瞬間のときめきを、あふれる想いを、みずみずしい映像に乗せて、ちょっと暑苦しいほどに、しっとりとたっぷりと描かれている。映画少年トトの8ミリ?カメラのファインダーに飛び込んできた少女のさわやかな印象、船の丸窓をそよ風のように(我ながら陳腐な表現じゃ!)横切った娘。それを追うナインティ・ハンドレッドの視線。これらのシーンには「ここ一番!」な、並々ならぬ思い入れが感じられる。

『マレーナ』は、トルナトーレ監督が描きつづけたモチーフ「初恋」を、作品のテーマに据え、じっくりと描ききった。ストーリーは、第二次大戦中のイタリア、シチリア島。大戦参加が決まり、沸き返るシラクーサの町。12歳の少年レナートは、海辺の道を歩く美しい人妻マレーナを見て恋に落ちる。マレーナの夫は遠征中の兵士、ひとり留守を守る美しいマレーナは町中の注目の的。男たちは色めきたち、女たちは嫉妬の視線をあびせる。レナートはマレーナの家を覗いたり、夜な夜な淫らな空想にふけったり、思いを募らせていく。やがてマレーナのもとに夫の訃報が届き、生きるために娼婦に身をやつし、町の中で孤立していくマレーナ。彼女のつらい日々を見つめつづけ「早く大人になりたい。僕があなた守ります」と伝えられない思いを胸に、ただ見つめることしかできないレナート。

マレーナ役のモニカ・ベルッチが好評だ。モニカ・ベルッチは、ドル&ガバなどで活躍した「イタリアの宝石」と賞されたトップモデル出身の女優で、トルナトーレ監督が長年温めてきた『マレーナ』の構想を、彼女との出会いで瞬間的に実現を決意させたという「運命の女」とか。キリッとした意思の強そうな顔立ちに、ボン・キュッ・ボンのダイナマイトバディ(脚はスラリ)、黒髪をなびかせてガシガシと足速に歩く姿は、まさにイタリア女。ひとり部屋でレコードを聴くマレーナの黒いスリップの紐が落ちて、小脇からチクビがチラリのシーンは、女のワタシでさえかなりドッキリしたほど「特濃」。ぴったりしたスカートの太ももに、小さく隆起しているガーターベルトの留め具を「コレハナンダ?」とばかりに追う、なんとも素直でねっとりした視線。これは、「レナートの視線」そのものがカメラワークとなっている。陽に透ける恥骨のラインとか、いちいち。もう、思春期ってヤツは・・・。マレーナのセリフは少なく、あくまでもレナートの視線を通してマレーナが描かれている。それがかえってマレーナを浮世離れしたイメージとして浮かび上がらせている。

レナート役のスルファート少年は、演技の経験のない素人だが、「視線の良さ」で抜擢された。この眼がなんとも熱くて切なくて、今にも気持ちがはちきれて目玉から手が伸びてきそうなのだ。物陰からマレーナを見つめ(やだなあ)、マレーナの家をのぞき(やだなあ!)、時には黒い下着を盗んだり(いやすぎるぅぅ!!)、声をかけることもできず、彼女が窮地に立たされても、ただ「見つめることしかできない」やるせなさを、眼だけで演じる。なかなかの熱演だが、スルファート少年は、『マレーナ』後は普通の高校生に戻ったらしい。

第二次大戦中のイタリアを舞台に、戦争のドサクサによる悲劇が盛り込まれているが、この物語はあくまでも「初恋」に焦点を当てている。感情を視線に託した抑制の効いたみずみずしい演出と、舞台となったシラクーサの町並みと海岸線の美しさが際立っていて、全体的に美しい寓話的なイメージに覆われている。レナートの両親がいっつもギャアギャア怒鳴りながらビシャビシャ子供をひっぱたき、これがイタリアの「どつき漫才」(あるのか?)みたいでやたらおかしかった。

【ぱんにゃのほんねくらぶ】

「トルナトーレの映画って、クサイかも」と一度思い始めたら、クサミが気になってねえ・・・。だけど、メロドラマに終わらせない映像美があるから、思わずいいなって思わされる。『マレーナ』は、女性よりは男性の方が共感する部分が多いと思う。ただ、レナート君はイマドキのストーカーの境界ラインにいるぞ。「ああいう風に想われて、女性は幸せデショ」みたいなこと監督言ってるけど、行動をいちいち追われて、壁に穴あけて覗かれてたら怖いじゃないのっ。あまりにも一方的な「片想い讃美」の姿勢がちょっとイヤだなー(ラストでレナートがやった行為でチャラになるけど)。モニカ・ベルッチ、チチ放り出しての熱演シーンがある。ラテン女は瞬く間に老けるから、ベルッチ、今が旬(でも私は中年のラテン女性、好きです)?旦那さんは『ドーベルマン』のヴァン・サン・カッセル。あと、トルナトーレ映画に欠かせないエンニオ・モリコーネの音楽、あまり印象に残りませんでした。挿入歌の“MA L'AMORENO”(懐メロ)のエンドロールでのアレンジは素敵でした。


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