どつかれてアンダルシア(仮) 99年・スペイン★★☆
監督:アレックス・デ・ラ・イグレシア
出演:サンティアゴ・セグラ、エル・グラン・ワイオミング、アレックス・アングロ他
「どつき漫才」でショービズ界をかけのぼるコンビの、人気の裏にある壮絶な憎しみあいを描いたスペイン映画。監督は今ハリウッドから最も注目され、『エイリアン3』のオファーを断ったことでも知られる俊英アレックス・デ・ラ・イグレシア。どつかれ役のニノは俳優だけでなく監督、脚本家をこなし、スペインのアカデミー賞とも言えるゴヤ賞に幾度も輝く才人サンティアゴ・セグラ。ブルーノ役はスペインで大人気の歌手・コメディアンのエル・グラン・ワイオミング。「スプーン曲げ」で世界中を熱狂させた「あの人」も登場している。

「どつき漫才」がスペインにも存在していた!
どつかれ役のニノの、ビシャーッとどつかれるシーンのアップ(何度もサブリミナルに繰り返される!)を予告編で観ただけで、そのどつかれ顔の良さにノックアウトされたワタシ。(仮)は余計だが、邦題のつけかたもシャレてるでないの。スペイン映画って結構好きなのだ。アントニオ・バンデラス、ペドロ・アルモドヴァルを世界マーケットに輩出したスペイン映画は、ヨーロッパ映画の中でもひときわポップでパワフルでドロくさく、そこはかとない鬱屈した暗さがある作品が少なくない。このほの暗さは、70年代のフランコ独裁政権下での抑圧された国民性に影響されていると言われることも。『どつかれてアンダルシア(仮)』も、そんなフランコ時代の70年代から始まっている。もともとテンションが高いラテンの国民は、苛立ちの中で何かを殴りつけたい衝動にかられていた。そこで登場した、どつき漫才。このウケ方といったらヒステリックなほどだ。

アンダルシアの場末の飲み屋の歌手だったニノ(セグラ)と店員のブルーノ(ワイオミング)は意気投合。一緒に何かをしようということで、ひょんなことから旅芸人の一座で初舞台を踏む。すっかり緊張したニノを、ブルーノがステージで一発ビシャッとどついた瞬間、客は大ウケ!かくしてどつき漫才コンビ「ニノ&ブルーノ」が誕生した。しかし、テレビに進出し、どんどん人気が出るほどに、相方が憎くなっていく・・・。

表面的には相性バツグンのニノとブルーノだが、人気が出るにしたがい、気持ちがすれちがっていく。やがて壮絶な憎しみあいのドロドロバトルへと展開していく。壁がつながった隣り合った豪邸を建て、四六時中お互いを監視しあう。相手に来たファンレターは隠すわ、ニノは美女を雇ってパーティーを催してブルーノに見せつけるわ。傍目にはバカバカしいが、これが鬼気迫る異様さがあり、この二人の異常なまでの嫉妬心と被害妄想は、常軌を逸してしまい、やがて殺意にまで発展していく。

かなりドロドロしたストーリーだが、ニノとブルーノ、実はお互いを尊敬していて、好きで好きで気になってしょうがないという思いが、ラスト近くで垣間見えてくる。憎しみと愛情は実は表裏一体であるという、絆の強いコンビの心理をついているような気がする。それにしても、ちょっとスゴすぎる話よね〜。ヒサンなラストであるが、シニカルな笑いも最後の最後まで忘れない。笑っていいものか迷うところだが、笑いトバすしかないでしょう。

バルセロナ五輪の開会式でニノが聖火台に火をつけたり、朗々とオペラ歌曲を歌ったり、という実際の五輪の映像と合成して作った『フォレスト・ガンプ』なシーンは、今や映画表現的にはベタかもしれないけど、こういうの、ワタシには非常にツボであります♪
ニノ&ブルーノの愛憎劇もいいけど、ふたりの芸をもっと見たかったとか、ドタバタも入れて欲しかったという気持ちが残ってるかな〜。


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