若くもなく、社会的地位もなく。本来映画のヒロインとしてはあまりにも地味な4人の女性たちを主人公に据え、殺人事件を発端に、それぞれの人生の崩壊と再生を描いたサスペンスドラマ。原作の作者、桐野夏生は、硬質でスタイリッシュな語り口で、サスペンスを描きつつ人間の本質を鋭くえぐる名手。作者は確かサスペンス作家になる前はファンタジー小説を書きながら主婦をやっておられ、『OUT』では「普通の主婦が抱いている閉塞感と、いつか羽ばたきたいという密めたる願い」を、肉体感覚に近いほど痛みをもって描いている。 『OUT』は、リストラ後失業中の夫とひきこもりの息子を持つ雅子(原田美枝子)、夫に先立たれ、寝たきりの姑の介護をするヨシエ(倍賞美津子)、暴力をふるう賭博狂いの夫に悩まされる妊婦の弥生(西田尚美)、買い物依存症で借金地獄にある邦子(室井滋)が、弥生が引き起こした夫殺害の片棒を担ぐことから物語は大きく展開していく。 劇中で最も圧巻なのが、雅子の自宅の風呂場で死体をバラバラに解体するシークエンスで、「料理に慣れている主婦ならば、血や肉への抵抗は男性よりもない」といわんばかりに、最初の首を落とすまではさすがに戸惑いながらも、やがて慣れた手さばきで大きな魚をさばくように死体をバラバラに解体していく。その時の、犯罪と知りながらも未知の領分へ足を踏み込んでいく彼女たちのある種の恍惚感は、夢も希望も見出しづらい立場にいる若い盛りを過ぎた女たちの奥底に潜む、無軌道な力が発揮されていく場面で、秀逸。事件は明るみに出て、女たちはそれぞれに自分の人生に決着をつけるために歩み出していくが、どこかでたくましく生き抜いてくれれば、と、応援したくなるような希望があったりする。これは原作のラストとは違う展開らしい。映画としては、もうちょっとテンポが良ければいいけどなあ。 |
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【ぱんにゃのひとことくらぶ】 桐野作品だもの、キャラ設定がさすがに絶品。深夜の弁当工場で働く普通(よりも地味な)主婦、というには、原田美枝子も、あえてオバさんぽくしている倍賞美津子もいい女すぎるが。室井滋の軽薄でこずるくて憎めない感じも、西田尚美のあっけらかんと人の好意に頼って生きるだらしなさもいいなあ。ちょっと影が薄くはなるけれど、間寛平のキレた悪役は怖かった。心底アホだからナニするかわからない怖さ。原田美枝子にほのかな思いを寄せるヤクザの香川照之の、狂気とさもしさとスネと優しさも、いい感じだった! |
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