5/18(火)日本時間 成田→
私も旅に出てみよう

JAL機の窓の下は北陸の山脈。新緑が萌える森の山頂は、残雪が幾重もの透かし編み模様を描いている。うっとりとながめているうちに、青く輝く日本海が見える。次に見える土地は日本ではない。ユーラシア大陸だ。


99年のはじめ、『小心者の海外一人旅』(越智幸生著・PHP文庫)という本にめぐりあった。普通のサラリーマンの著者が、失業中に初めてヨーロッパを一人旅した記録だ。タイトルに強く惹かれた。私も異常に小心者で怖がりだから。私と同じような性格の人が、一人で海外旅行を?英語力も、どうやら私と似たようなものだ(ダメダメってこと)。それでも戸惑いながら、一生懸命に旅を続けている。旅で出会った人との交流、ちいさな失敗などから得る心の糧を、ご自身によるイラストをまじえて生き生きと描いている。
私も一人旅をしようと決意した。一人で鉄道に乗り、宿をさがし、ごはんを食べ、見たことのない景色や文化や芸術に触れ、ヨーロッパの国から国へ、自分を運んでみたい。日常生活を離れ、適度な疲労と刺激を受けながら、自分と向き合いたいと思った。30歳を越えた私は、過去を振り返りつつ、これから先のことをじっくり考えたかった。何でもいいから、今の自分を無理矢理でも越えてみたい、というのも正直なところかもしれない。つまり漠然とした不安感や停滞感の中であえいでいたころだった。
折りよく、同じ時期に旅上手のヤマちゃんが、転職の合間にヨーロッパとアメリカを旅すると言う。旅なれた彼女と途中で合流すればいい。決意してから1ヶ月ほど、私は『小心者・・・』を何度も読んでは勇気を奮い起こし、考え考え支度をした。それにしても、怖がる気持ちよりも「行きたい」気持が勝っている。私にはとてもめずらしいことだ。

パリ行きのJALの機内では、期待よりも不安でいっぱいで、私はすでに泣きたくなってきた。お酒でも飲まずにはいれれない。私はJALのオリジナルドリンクの「スカイタイム」(キーウイとローヤルゼリーのドリンク)が好きで、これにウオッカを入れて飲むと美味しい。私の座席をを担当するのは男性のスチュワード。・・・エールフランスあたりの可愛くて若い、ワクワクするようなスチュワードとは違う。普通のおじさんだ。勤め人時代の総務部の課長に似ている。でも彼はとても優秀で、常に優しく気配りしてくれる。満席の機内でありながらも、常に私の飲み物の残量をチェックしては「ウオッカ残ってます?では、スカイタイムをお持ちします
ネ」とおかわりを運び、「ささ、おつまみのおかわりでございます」と頼みもしない柿ピーを持ってきてくれる。以前乗ったエールフランスの彼らは、ツレアイが「オレンジジュース、シルブプレ〜」と何度も頼んでいるのに、マジで忘れてしまう連中ばかりだった。
私と同じ便に、北野武監督が乗っていた。カンヌ映画祭に『菊次郎の夏』を出品しているのだ。ヘラルドの試写であらかじめ観ておいた私。実は旅の目的のひとつがカンヌ映画祭であーる。私は昔からのたけしファンである。しかし、エコノミー席の私とファーストクラスの監督とでは、同じ機内にいる感覚はゼロ。カスりもしない。

5/18(火)フランス時間 パリ着
小心者の性格、パリにて炸裂。

到着前の機内にて。『地球の歩き方』を読みながら、入国審査や荷物の受け取りの手順をメモにチマチマ箇条書き新ターミナルし、頭の中でシュミレーションしているうちに「はたしてちゃんとコトが進むのだろうか」と不安になってきた。「空港からは、リムジンバスで凱旋門まで行き、地下鉄に乗り換えて、あらかじめ予約しておいたホテルに向かう」ことになっているが、もう不安で不安で・・・。「料金は前払いか、後払いか」「荷物はどうやって乗せるのか」バスのことだけでエンエンと悩んでは、胃がキリキリする。世話役、総務課長スチュワード氏は休憩に入ったらしい・・・。
シャルル・ド・ゴール空港に到着。「パリの入国審査は楽勝」とのことなので、難なく入国。荷物もちゃんと受け取る。こういうのはネ、ド・ゴール空港も長崎空港も似たようなモンですよ・・・。(写真は新ターミナル)
シャルル・ド・ゴール空港ってちょっと暗くて独特な味わいがある。『パリ空港の人々』という、入国も出国もできず空港に住み着いている人たちを描いた、切ない味わいの大好きな映画がある。あれはどうも実話らしく、今もあの人たちは空港のどこかでひっそり暮らしているのかなーなどとふと思いがよぎるが、パリ空港の人どころ余裕は私にはなかった。出発前夜も緊張のあまり一睡もしないで出てきたうえ、飛行機でも眠れない。睡眠不足でアタマはハイになり、不安と気疲れでどうかなりそう。飲めないお酒を飲み気圧の変化で悪酔いし、胃の中はどんちゃん騒ぎ。疲れた〜!でも、ここからホテルにたどり着かねばならない。
まずは両替だ。1万円をフランに。もう、レートがいくらか知ったことじゃない。多少ぼったくられてもいいから、とにかくフランにしてください!って気分。
不安でしょうがなかったリムジンバス。こわごわとバスに近寄ったら、セイウチみたいな優しげな運転手が「ボンジュール♪」と笑顔で迎えてくれ、荷物を座席下に運んでくれた。あ・ありがとう。チ・チップは降りる時でいいかナ。運転席には「60F」と書かれていて、セイウチ氏が「ハイ、今払うんだヨ」とニコニコとグローブのような手をさしだす。
車窓の景色は、パリというよりも羽田っぽい。工場が続く郊外の景色はみょうにもの寂しい。おまけにクタクタ。すごーく帰りたい。泣く元気もない・・・。小一時間ほどして、景色はしだいにパリらしい華やぎを帯びはじめ、やがて凱旋門につく。「さあ、日本のお嬢ちゃん。どーだ、これが凱旋門だ」みたいなことを言うセイウチ氏に、「ひゃあ、すごーい♪」という表情をむりやり作り、チップを渡して降りる。
パリは二度目。街との相性がいいと感じたし、地下鉄にも乗ったことがあるのよ私・・・。ということで、この旅のゲートシティに選んだパリ。でも今は何の感動もない・・・。メトロに乗るべく地下に降りるが、コロ(キャスターを私はこう呼ぶ)つきのバックパックには階段はキツイ。ヒイヒイ言いながら、カルネ(地下鉄回数券)を買って乗り込む。
鉄道サン・ラザール駅近くのユーロップ駅で降り、ホテルの地図を見るが、これがまた、想像で書いたとしか思えないような、超いいかげんな地図。石畳を犬のウンチを避けながら、重いバッグをひきずり、30分ほど歩き回る。ホテル「ティモテル・ユーロップ」に着いた時は目頭が熱くなった。「ホテルのチェックイン」というのも私には難関であるはずだったが、悩むヒマもないぐらい疲れていた。「ボンジュー、予約してる者です〜(英語)」と告げ、あっさりチェック・イン。部屋へ。清潔だがせまい・・・。部屋は1階で通りに面していて、犬の足音までピタピタ聞こえる。でももうなんでもいいや。夜10時近くなっても外は明るい。とにかく寝る。

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