5/20(木)ニース(カンヌ・アンティーバ)
ここにいて、遠く感じるカンヌへ
ユースの朝食もコンチネンタル。テーブルに「勝手に食べてちょうだいよ」とばかりにカゴにどさっと盛られたバゲットと、山盛りバターとイチゴジャム。飲み物はショコラ(いわゆるココア)に決まり。さすが、フランスはどこへ行っても(ったってパリしか知らんがな)バゲットがパリパリして美味しい!バターもちゃんとミルクで出来ていて、しかも醗酵バターで風味が強い。バター好きの私にはたまらない。ショコラがこれまた美味。
今日はカンヌ国際映画祭へ行きます。
出発前に親分編集者が、「カンヌ行くなら配給会社に頼んで、入場パスを貰うんだよ!」とアドバイスを下さった。しかし、当時の私は業界での仕事がゼロ状態で、試写室に行くのも申しわけないと思う毎日だった。そんな私が「カンヌのパスの手配しろ」なんてエライさんに言えるわけないですよぅ。「今回は『カンヌに来ているのに中に入れないで悔しい』という気持を味わうことにしよう」とおかしな言い訳を自分にした。実はあるんですよ!そういう映画が。『カンヌ映画通り』というスイスの作品。映画関係にコネがない映画好きの女性が、一生懸命に記者会見場にもぐりこんではつまみ出されんの。退屈しのぎにベッドの上でのぞくオペラ・グラスには、彼女の心の絵のような、往年の華やかな映画スターたちの姿が写る・・・。ドキュメンタリータッチで不思議な魅力のある小粒な作品です。
地中海沿いを走る電車からは、ときおり目が覚めるような青く輝く海が見える。潮風に吹かれ、ゴトゴト電車にゆられていると、しあわせな気持がこみあげてくる。30分ほどでカンヌに到着。この路線は便数も多くて便利。スペインやイタリアに続いている、ながーい線路。
カンヌ駅から会場のあるビーチ沿いに向かって歩く。人通りも多く、映画祭にちなんだ土産物屋がならぶ。まさにカンヌは映画祭一色。会場近くはもう大混雑。胸に入場パスを付けた各国の映画関係者が忙しく往来している。世界中の観光客がうらやましそうに眺めている。ここまで来ると、「中に入れない切なさを楽しもう」なんて気持ちは消えた。私も入りたい!日本人関係者をつかまえて、親分の名前と名刺を使って(すみません)でも、何とかしてもらおう。しかし、いくらウロウロしても日本人関係者は見当たらない。それに会ったとしても「あなたが書いている媒体は何ですか」って聞かれたらどうしよう。『キネマ旬報』でーすなんつって、ああオセワになっておりマス。○○編集長はお元気ですかー、なんて話になったらヤバいかな。だけど入りたいなー。今年はすごいよ、名匠揃いなんだもん。アルモドヴァル監督でしょ、デビッド・リンチ監督でしょ・・・。いいないいなー。だんだん『カンヌ映画通り』の主人公の痛みがピリピリ伝わってくる。ここまでカタクナに外野をキメこむことなかった・・・と泣けてくる。後悔と憧れはつのるばかり。カンヌの空はどこまでも青い。海沿いなのにさらりとした風。こういう海もあったんだなあ・・・。リッチでラグジュアリーなリゾート。海沿いをテクテク歩いていると、「Kikujiro
restaurant」を発見!す、すごい!北野監督の作品名をつけた特設レストランだ。シーフードが食べられるみたい。でも、一人で入る勇気はないので、美味しそうなサンドウィッチ屋さんを見つけて、サラミとピクルスのはさまったバゲットを歩きながら食べる。これがメチャメチャ美味しくて大満足!レストランもいいけど、歩きながらや好きな場所で食べるのも大好き。実際外人はやたら歩きながら食事を摂る。
後ろ髪をひかれながら、カンヌを後にし、ニースに戻る途中にある小さな観光地、アンティーバに寄る。ヨットハーバー沿いを風に吹かれながら、城塞がある小高い丘をめざして歩く。観光客どころか、人通りもない。とても美しい海沿いの町を一人占めにするぜいたく。丘に登り始めたら、えっ?と思うほどのワイルドな道。こりゃ襲われても文句は言えないなーと思いながらも歩く。野生の花の可愛らしいこと。アマポーラにカモミールかな?ひょこひょこ歩いているうちに、とつぜん目の前にぱあっと青い海が広がる。シアワセこの上ない!
電車に乗って、ニースへ。美しい海岸沿いの目抜き通りを歩く。かの有名なネグレスコ・ホテルがある。いつか泊まろう。ニースやカンヌは、アッパークラスなほどお楽しみがたくさんありそうだ。明日行くモナコだってそうだろう。今回は貧乏旅行だけど、年とってからのヨーロッパ旅行も楽しいだろうな。
ニースでひとつ、人生について考える
ユースホステルの近くに見晴らし台がある。ここから見えるニースの夜景は、ちょっと他にないぐらい素晴らしい。うっとり長い時間眺めていたら、ユースのマネージャーが話し掛けてきた。お互いカタコト(私はヒドすぎ)の英語で会話する。
「えーっ、1ヶ月しかバケーションがないの?日本人ってさ、働きすぎだよね。どうして?」
1ヶ月もフラフラするなんて、いい御身分この上なしですよ・・・。
「何のために働くのかなあ・・・。お金のため?フランス人は人生を愛しているんだ。食べること、眠ること、恋すること。そして週末を、バカンスを。お金なんかないけどさ、僕らはとっても幸せだよ。・・・・ほら見てよ、鳥がたくさんとんでいる」
・・・ナニを言ってるんだかこのニイさんは・・・と思って見上げると、気持ち良さそうに空高く舞う鳥たちが。大空を支配し、港の小さな灯りのすべてが彼らの持ち駒に見えてしまう。自由っていったい何だろう。そんなに私達は縛られた暮らしをしているのかなあ。
口笛を吹きながら、毎晩眺めあきているはずの夜景をうっとり見入っている彼。
私は人生観がちょっとグラつくのを感じた。夜景を楽しむ。季節の移り変わりを喜ぶ。窓辺に椅子を出し、一杯のワインを愛でる。そういうふうに何気ない生活を大切にして生きるのもいいんじゃないかって。それも素晴らしいと思う。でもさ、日本人だってお金のためだけに働いているんじゃないよーだ。そもそもね、日本人は働くことが好きなんだよ!本質的には、世の中が栄えたり便利になっていくことに喜びを感じるような勤勉な人種なんだよーだ。フンだ。フランス人なんかどこ行ってもタルそーに働いててさ、だからダメなんだよー。と悪態つくこともできない英語力。ただね、仕事があるからこそ、旅したり遊んだりする時がいとおしく、輝くんじゃないのかな・・・って思うよ。
|