ポルトガル旅日記
10月2日(水)パリ→スペイン国境の町
●パリの夜明けは早く、日没は遅いが
7時間の時差のために夜明け前から目が醒め、夜明けを待つ。
窓の外からパリの下町の暮らしを眺める。
洗濯物を干す老女、窓の外をずうっと眺めている猫。

パリではカーテンの代わりに日本の「すだれ」が流行っているみたいだった。(写真は部屋の窓からの景色)
3年前に来たときも、雑誌に「FUTON(布団)」特集があったっけ。

身支度をととのえて、宿の地下の食堂で朝食を取る。ショコラとパリパリのクロワッサン、バゲット。やっぱりフランスのパンは美味しい。

●ヤギのチーズに泣く、食のチャレンジャー
今夜はフランスとスペインの国境の街、IRUNまでTGV(新幹線)
に乗って5時間半、そこで夜行列車SUD EXPRESSに乗り換えて
簡易寝台(クシェット)で夜を過ごして13時間半後にリスボン着の予定。

南方面の国際列車はモンパルナス駅から出るので、モンパルナス駅の
コインロッカーに荷物を預けて、出発の時間4時ごろまでパリを歩こう。
パリには何度か訪れた相棒、サンジェルマン・デ・プレ近くのBUCHという
下町が活気があって好きだとかで、そこに案内してもらうことに。
モンパルナスからサン・ジェルマン・デ・プレまで歩く途中に露天市場が。
果物や野菜を見るだけでも楽しい。中には「キノコ専門店」などもある。
ところでマドモアゼル、カバン開いてまっせ→

チーズ好きの相棒が、ヤギのチーズを購入。小心者の私は遠慮する。
しかしそれが凄まじい臭みで、いつまでも鼻から臭みが抜けないと大騒ぎ。
味を表現してもらうと「ヤギの大群が次々に口の中にゲロを吐いている」
●迷ったあげく、変わっていた街に着く
BUCH」に行くはずが、なかなか行き当たらない。どうも、「BUCH」(ブチ)ではなく「BAC」(バク?)を徘徊していた我々だった。ブチだのバクだの、なんかマヌケ。

BUCHは、相棒が滞在していた時(だいぶ昔だが)より、ツーリスティックな街になってしまったそうで、がっかりだとか。焼き立てのパンを次々にお客に放り投げて、まさに「飛ぶように売れる」美味しいパン屋さんがあったそうだが、それもなくなったそうで、残念そう。
●「星の王子様」は今もフランスで一番愛されている
それでもBUCHは、最先端アートを取り扱う画廊が多く、なかなか楽しい。
「星の王子様」の専門店発見。私も子供時代に感動した1冊。
初めてパリを訪れた1999年冬は、サン・テグジュペリ生誕100年の年で
記念に「星の王子様」の腕時計を買ったのだが、半年で壊れたっけ。
1万円する品物だったのになあ。

ちょうどパリでは「星の王子様」のミュージカルが開催されるため、
街中やパリの「ぴあ」のような情報誌「パリスコープ」の表紙などで大宣伝。
「スペクタクル・ミュージカル」とのうたい文句に、「スペクタクルと来たか〜」
と思いながらも、ミョーに観てみたいとは思った。

わはは、なんだこら。可愛いぞ
いろんなキャラのチェス。キョロちゃんもいた
ウィンドウを眺めたりしながら、ぶらぶら過ごす。
昼食は、歩きながらクロック・ムッシュ
(ベシャメルソースとたっぷりチーズとハム入りのホットサンド)
を食べたり、市場のお惣菜屋で買ったトマトの肉詰めを
サンジェルマン教会のベンチで学生らに混じって食べる。
我々、トマトの汁をボタボタさせながら手づかみで喰らう。
サン・ジェルマン・デ・プレには老舗カフェ
「フロール」と「ドゥ・マゴ」が。
「ドゥ・マゴ」は東京は渋谷のBUNKAMURAに支店があり、
2001年夏、レストランガイドブック「ザ・グルメ」(エクスメディア刊)
で取材したことを思い出す。ショコラが抜群に美味しいの。
「どっちも、ヨーロッパのオノボリさんばっかりじゃのう!」
●あの、タバコ好きのフランス人までもが・・・・
ヨーロッパ旅行のおとも、グラム売りのグミを買ってTGVに乗り込む。
入れ歯型のグミも買ってしまった。キバがプリティ。
ペリエとサンドイッチも買う。5時間半ほどでスペイン国境の町IRUN。

しかし、TGV、禁煙車両がほとんど。TGVだけでなく、
パリの人全体的にタバコを吸わなくなったことを改めて感じる。
私らですか、愛煙派です。薬害だの、世の中にはタバコなんかより
もっと危険なことがたくさんあって、タバコなどは大した問題ではない。
と、私の好きなアメリカの作家ポール・オースターが言ってる!
まあ、出費がかさむから、なるべく節煙するつもりではいる。



◆この旅最大のピンチ「TOLOSA物語」◆


夜10時過ぎ。IRUNに到着。わたわたと降りる私たち一行。乗り換えの時間まで30分ほど、駅前のバールでサンドイッチなどを買う。
寝台列車「SUD EXPRESS」は何番線に入るのかを確かめようと駅に戻るが、何もかかれていなかった。おかしいな、と思って駅員に尋ねたら、
「あら、ここはフランス国鉄の駅のIRUNで、SUDはスペイン国鉄の駅から出るんです。タクシーで移動した方がいいわよ」と言われる。
何だって〜〜〜〜!?!?乗り換え駅を降り間違えたのか、我々は!!でも、そんなIRUN駅がふたつあって、という情報は何もなかったぞ。
背後で「あー、でも間に合わないかも・・・」とマダム駅員が腕時計を見ながら、つぶやいているのを感じながら、
真っ青になった我々。道路に仁王立ちになり、タクシーを体当たり状態で止める。運転手はフランス語オンリーだったが、
切符を見せて「シルブプレ!シルブプレ〜!」と叫ぶ我々に全てを察して、凄まじいスピードで走り出すフレンチタクシー。
15分ほどでスペイン国鉄駅に到着。しかし、SUD EXPRESSは数分前に出発してしまっていた。
やってしまった・・・・・。
あとで察するに、タクシーの運転手が「次の駅の、サン・セバスチャンまで飛ばしてやろか、そこでならSUD EXPRESSに追いつけるぞ」
と言ってくれていたらしいが、そのときは、ショックのあまりよくわからず「とりあえず、降りる」と。
仕方ないから、今夜はこのへんでテキトーに泊まって、明日のSUD EXPRESSに乗ろう、と決める。
しかし、このあたりはHOTELがありそうにもない、真っ暗な町。
今回、スペインに行く予定はまったくなかったため、スペインの情報はゼロ。
しかし、相棒は、過去に取材でスペイン北部を廻った経験があり、
「じゃ、次の町のサン・セバスチャンに行って泊まろかー。大きな海辺のリゾートよ〜」と頼もしい。
焦ってもいない。むしろ楽しんでいるぐらいの余裕だ。
一人旅じゃないってなんてステキ・・・・。鈍行の在来線に乗り込む。
サン・セバ、だいたい10何キロ先だから、渋谷から川崎の距離だね、とトーマスクック時刻表を見ながら話しつつ、
地元の人たちに混じって在来線の旅。
途中、我々の乗車券を見にきた車掌さんにも「サン・セバスチャン?(に行くのか)」と聞かれて、ウンウンと首をたてにふる。
数十分の時間が流れる。
「ねーねー、サン・セバスチャンって駅まだかなー。渋谷から川崎の距離どころか、横浜もとうに過ぎてる時間だよ」
「駅の名前、ちゃんと見てたよなあ」
「見てた見てた。サン・セバスチャンなんてなかった」
「なかったよなあ。誰かに聞くかぁ」
フランスとは違い、スペイン人は英語が通じないことが多い。しかし、相棒は若い男性の集団に入っていき、
ゼスチャーで「今どこを走っているのか」と車内の路線図を指差しながら聞いている。「サン・セバスチャンに行きたいんやけど」と。

「あのなあ、どうも乗り過ごしたらしいねん」
「マジで!!??」
つまり、サン・セバスチャンというのは町の通称で、本来は違う名前の駅名らしい。何だとぅ!?トーマス・クック時刻表にも「サン・セバスチャン」て
書かれているではないの。「ま、あれやな、サン・セバスチャンてのは聖書に出てくる裏切り者の名前やから、あまり公にしたくない通称なのかもなあ」
と相棒。しかし、この電車は終電らしい。サン・セバスチャンに折り返す電車もない。
深夜近くに東洋人旅行者2名が、地元の電車に乗っているのも珍しく、チラチラと見られていた我々への視線、好奇心から一気に憐憫に変わる。
車内の空気がピーンと緊張する。気の毒に、あのひとたち・・・・。どうするんだろ。そんな空気で満ちる。相棒はアハアハ笑っている。
駅をいくつか通過するが、ホテルなんかいっこもなさそうにない、無人駅が続く、超田舎路線である。
「んじゃ、どっかの駅のホームで野宿しよかー」
「ウン、ぜんぜん平気だけど、駅が寝かせてくれるかねえ」
「それもあるなあ」
ま、何とかなるわ。独りじゃないってステキ。車内の路線図を見ていた相棒がふと言う。
「あのな、この電車の終点までの間に、TOLOSAって町があるけど、これ、もしかしたら大きい町かもしれんで。ダメモトで行ってみっか」
我々の会話を眺めていた、ひとりの若い女性が声をかける。英語だ。
「あのう、もうこの電車は終電で、サン・セバスチャンに折り返すこともできないの。この先のTOLOSAという町だったら、駅の近くにホテルがあるわよ」と。
そのことは、我々のサバイバル魂で解決に向かっていることだったが、改めて他人に確認してもらえたことと、
何よりも心配して声をかけてくれた優しさが嬉しかった。
黒髪で大きな瞳のお嬢さんは、TOLOSAに住む女の子。一緒にTOLOSAで降りるが、やはり田舎町である。
暗い道を、ホテルのネオンが見えるところまで案内してくれる。
ああ、やっぱり自分たちだけでは、ここまで歩いて見つけることはできなかった、きっと・・・と思うと
その女の子の親切が身にしみる。世の中捨てたもんじゃない。どうかこの親切な女の子が幸せになれますように。
その間「サン・セバスチャンに行こうとしてたの?あそこは素敵。ロマンチックな町よ」と、あれこれ話してくれる。
お礼を言って別れるが、名前ぐらい聞けばよかった。
ホテル「ORIA」。もう深夜であるが、「部屋ありますか」との我々に気持ちよく対応してくれる。
どうやら部屋は満室だが、別館は空いているとのこと。道を隔てた近場だ。
その別館は、黄色い壁の、素敵な一軒屋風の建物で、入り口から自分たちで鍵で入る。ほかに客はいないようす。
「こ、こりゃあ思いがけずロマンチックホテルに・・・・・」
部屋もきれいで可愛くて、バスタブにお湯を張ってゆるゆると身体を伸ばすと、幸福感がいっぱいに広がる。
「優しい女の子だったねえ」
などと話しながら、ひとまずピンチをくぐりぬけたことを喜び、持っていた小さなワインを飲んで眠る。


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