第3章:チェスセンター編



 ONEさんにとっては初めての、私にとっては3度目のチェ
スセンター。ここは土日しか開いていない事は、前回来た時に
聞いていた。で、今日は土曜日、もちろん開いている。・・・
・・・だけれども、



受付以外誰もいなかった。



 ・・・・・・すっかり忘れていた。以前土曜日に来たときも
、確か誰もいなかった。さしものONEさんも少々引き気味の
ご様子。
 しかし玄関で突っ立っていても仕方がない。とりあえず中に
入ろうとしたが・・・・・・ここは土足でいいのかどうか忘れ
てしまった。私がしばし逡巡していると、ONEさんは迷わず
中へ。その姿は正しく威風堂々。玄関に靴が全く置いていない
事に気付いたのか、それとも何も考えていないのか。どっちに
しても大物である。流石は雪一族を統べる人物、伊達に歳は食
っていない。こうなりたいわけでは無いけれど。

 とりあえず入ってすぐの書籍コーナーへ。チェスは洋物、当
然本も洋書が圧倒的に多くなるわけだが。ぐるっと一周しON
Eさんが一言。



「日本語の本が一冊あれば充分だ」



 完全に洋書を拒絶する雪一族・族長。その頑ななまでの拒絶
っぷりは漢らしいの一言に尽きる。こうなりたいわけでは無い
けれど。

 アイテム見学も飽きたようなので、とりあえず試合をするこ
とにした。とは言えお客は0、必然的に相手はお互いになる。
席料の事を訪ねると、「いいです」との事。逆にチェス・クロ
ック(対局時に使う時計)の使用を尋ねられたが、ここでもON
Eさんはキッパリと拒絶。どうも面倒事は嫌いな性分らしい。

 そんなこんなで試合開始。ちょっと前の試合でONEさんに
敗北を喫していたので、内心復讐で身を焦がしている私。こう
見えても餅を付いた様な性格のため、なんとしてもリベンジ決
めるべく気合を入れる。
 数分後、妙なことに気付く。どうもONEさんの動きがおか
しい。挙動不審なのはいつもの事なので気にしないが、駒の動
きがおかしいのだ。すると、「向かい合っての試合は経験不足
」とのこと。これはつまり、



『地の利は我に有り!』



 そうと決まれば話は早い。センター制圧は控えめにし、両サ
イドを狙ってONEさんの気を分散させる作戦に出た。どうも
これが功を奏したらしく、連戦連勝、天下泰平である。
 そんな折、何を思ったかONEさんがデジカメを持ち出して
きた。何でも『私の顔写真を配布する』らしい。まぁ単なるシ
ャレで、実際配ったりはしないだろう。・・・などと悠長に構
えていると、なんか盤を弄くり始めた。何でもチェス盤も入れ
て撮影するとか。偽造である。・・・どうやら本腰入れて撮影
するらしい。後日本当に配布されたという事も、ついでに記し
ておこう。

 何戦かこなし、一時休憩とばかりにジュースを嚥下している
と、私に似た感じのお客(♂)が一人。どうもこれからチェス
を初めようとしている方らしいが、居るのは受付一人に客二人
。こうくれば、結果はすでに見えている。そう・・・・・・私
達が教えることになるのだ。この私達が、である。
 それはつまり、彼の未来も決まってくるわけでして。さり気
に『早く帰ったほうがええ!!』と目で合図を送ってみるが、
もちろん気付かれる事はなかった。

 とかやっている内に、レクチャー開始。私は人に物を教える
のを苦手とするタイプなので、もっぱらONEさんに任せる事
にした。となると対戦相手は私になるわけで。手加減も苦手と
する私は、あまり考えないで指すようにした。その間ONEさ
んは彼に教えつつ、私の悪評流しつつであった。そのくせ自分
は試合をしないというその姿は、私の目に日本政治をダブらせ
た。
 ちょっと用を足すために席を外しても、一向に試合する気を
見せないONEさん。一言の会話も無く私を待って居るのを見
て、ようやく貧乏クジを引かされたことに気付く私。一瞬悪役
に徹し、ハメ手で倒しまくろうかとも思ったが、これでもチェ
スプレイヤーの端くれ。日本のチェスの未来を想い、ぐっと堪
える。

 結局彼が帰るまで一度も試合をしなかったONEさん。人と
して端くれである。心底ムカついたので、未来有望な若者に代
わり、年老いたONEさんをハメ手の神様へ生贄として捧げる
事にした。うまく行ったので、後日トロさんにも同じ事をして
みたというのは、ここだけの話である。





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